それは、〈強力な販売網の確立〉や〈商品開発〉などによって、T海上が〈規模の拡大〉を実現することであり、〈お客様を増やすことが第一〉としている。 〈損保を軸とした金融サービスの拡大〉のため、〈金融商品の穣極的開発、カード機能の充実〉などもあげている。
すべてが〈金融業際戦争〉を念頭においた業務の拡大を狙ったものばかりである。 〈他業界との激しい競争〉のためには、ND2作戦並みに厳しい〈金融業際戦争〉を仕掛けていくということである。
かつては、TY戦争といわれ、業界第二位のY火災との損保業界内の競争だった。 だが、いまでは業際(法律で定められた業界の垣根)を超えて、T海上はTN戦争を意識している。
ここでいうNとは、N証券やN生命を意味している。 N証券は、八六年度の収益で日本一になったが、同社が君臨する証券界を念頭においている。

また、N生命は、いまや世界最大の機関投資家として世界の金融資本市場でマネーを動かしている。 生命保険業界は同じ保険業界であっても、損保業界とはケタちがいにマネーなどの資産を蓄積していた。
TOOS計画は、単にT海上一社だけでなく、同社が属する日本最大の企業集団、Mグループ全体のより大きな戦略があってのことと思われる。 なぜなら、Mグループとしても、金融界の各業際にM銀行などの金融大企業を持っており、T海上の〈金融業際戦争〉も、Mグループ全体の「国際金融戦争」にたいする戦略にもとづいているとみられるからだ。
だが、企業集団の実態は、この書では追跡する法律を無視してきた。 余裕がないので、私自身の今後の仕事の宿題として残しておきたい。
日本の金融界は、もともと銀行、証券、損保、生保などの業際が法律で明確に定められ、業際を守って成り立ってきた。 ところが、N証券とF銀行の場合でもみてきたように、それぞれの業界の金融大企業は、「金融の自由化、国際化」によって、すでにその業際と国境を超えて業務を拡大し、総合金融機関化と多国籍化をめざしてきた。
損保業界も例外ではなく、業際と国境を超えて総合金融機関化と多国籍化をめざしている。 業界二位のY火災も、はっきりと「総合金融機関化」をうたっている。
T海上の広報部に「Y火災のいう「総合金融機関化」とどこがどうちがうのか」と聞くと、「実際はY火災さんなどがいわれているのと、そんなにちがいはありません」といった。 もっとも保険業法は、保険事業の社会性と公共性から、保険契約者の保護と民営保険事業にたいする各種の行政的監督を定めている。
同法は、〈保険会社ハ他ノ事業ヲ営ムコトヲ得ズ〉(第五条)と定め、〈兼業の制限〉を明確にしている。 また、同じ保険会社であっても、〈保険会社ハ生命保険事業ト損害保険事業トヲ併セ営ムコトヲ得ズ〉(第七条)と、業際を明確にし、〈兼業の禁止〉を定めている。
このように、それぞれの金融部門の業際を定める法律が、この日本にはそろっている。 だが、政府と行政機関の庇誕のもとに、それぞれの金融大企業があまりにも大きく力強くなってしまい、この国がマネー大国になってしまったがために、それらの法律をつくってきた人びと自身が、自ら先頭に立ってこれらのさきの保険審議会の答申も、いわば保険業法に違反する業務を拡大していく路線の舗装役として、〈金融の自由化・国際化は、全体として我が国金融の効率化に資する〉などと、大いに奨励している。

また、監督官庁の大蔵省の銀行局も、金融政策と金融行政に関する記録『銀行局金融年報』八七年版のなかで、〈金融行政においても、業務規制の緩和・撤廃を推進すること等によりこうした金融の自由化を時代の流れとして定着すべく対応してきた〉などと書いている。 このように、法律をつくりそれを守らせる立場にある政府・行政機関自身が、現に存在している法律を無視することを指導しているわけである。
むろん、T海上は、各業界の金融大企業とともに、「自由化、国際化」を絶好のチャンスとして、業際を超えた業務の拡大を図ってきた。 T社長も、八七年の年頭挨拶では、〈こうした〔自由化、国際化による〕激動の時代を、むしろ絶好のビジネスチャンスとしてとらえ、総合安心サービス産業へと飛躍することによって、菰極的に自己の領域を拡大していく〉(「TOKIOMONTHーY」八七年一月号)と、明確に述べている。
この〈絶好のチャンス〉を生かして〈自己の領域を拡大〉するのが、ほかならぬTOOS計画であり、その戦略商品は、やはり積立型保険である。 それは、〈損保を軸とした金融サービスの拡大〉や〈新保険分野への展開〉といった〈金融業際戦争〉の武器である。
金融資本市場で支配力を発揮できるだけのマネーをかき集めるには、恰好の金融商品であるとみているからだ。 では、戦略商品の積立型保険が、国民や消費者には、いったいなにをもたらすのだろうか。
つぎに、この点を追跡しよう。 あなたの命のコンピューター勘定は?積立型保険は、はたして国民と消費者にとって損か得か、前章のF銀行で試みたのと同様に、そのT海上が開発し〈積立型商品の決定版〉と自慢していたく積立特約の一層の活用〉などを奨励してい賛していた。
紹介しよう。 損保協会のコーナーでは、「あなたのいのちの値段コンピューターで計れば」という、どきっとする看板がかかっていた。

T海上のノルマ・コンテストが、より強い刺激を求めて戦争まで商売道具にしてしまったように、なにより第一のはずの〈お客様〉を集める手段も刺激的になっている。 ここには、ほかのコーナーより人だかりがしていた。
人間一人の命は地球より重いともいう。 人間の生命に〈値段〉などつけられるものなのか。
命と命同士でさえ引き換えられないのに、その命までが、コンピューター勘定でマネーに換算されてはたまったものではない。 だが、「マネー新時代の情報とサービス」の一つを試してみようと、私のくいのちの値段〉をコンピューター勘定にまかせてみた。
まず、私自身についての情報をカードに記入させられた。 氏名、生年月日、性別、職業、年収、被扶養者、家族構成などである。
実際の年収は、取材費などの必要経費をさっ引くとこれより大幅に下回るが、きりのよいところで三○○万円と記して提出した。 だれかがそれをみて、「ええっ、年収三○○万円だって、おまえそんなにあるのか」といった。
同じ列に並んでいた二○歳前後の数人の集団のだれかが、私のカードを仲間が書いたものと勘違いじたらしかつロバン勘定ならぬ「コンピューター勘定」を探ってみよう。 その前提となる、従来からの損害保険のコンピューター勘定も、いかに冷酷であるかを肝に銘じておく必要がある。
私自身が思い知らされたことから八七年一○月中旬、東京・池袋でN新聞社主催の「八七金融総合展」が開催された。 「マネー新時代の情報とサービス」をうたい、金融界の各業界団体の損害保険協会や証券協会、生命保険協会などが協た。
私は年収三○○万円程度が一般的だろうという見当をつけて書いたのでもあるが、あとになって交通事故の損害の査定や示談交渉に当たっている、T海上の社員の何人かに話を聞いた。 彼らは、「交通事故は三○○万円以下の低所得層に多い」「なぜか加害者も被害者もほとんどがそうだ」などといった。

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